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2026年なぜ、スポーツの現場で体罰・暴言がなくならないのか?

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2026年なぜ、スポーツの現場で体罰・暴言がなくならないのか?

2026年なぜ、スポーツの現場で体罰・暴言がなくならないのか?

2026/08/03

2026年なぜ、スポーツの現場で体罰・暴言がなくならないのか?

「問題ある指導者」を排除するだけでは、終わらない

スポーツの現場では、これまで何度も体罰や暴言が問題になってきました。

そのたびに、

「体罰は絶対にいけない」
「暴言は指導ではない」
「選手の人権を守らなければならない」

と確認され、研修や再発防止策が講じられてきました。

それでも、体罰や暴言は完全にはなくなっていません。

なぜなのでしょうか。

もちろん、体罰や暴言を行った指導者の責任を曖昧にしてはいけません。どのような理由があっても、選手の身体や尊厳を傷つける行為は正当化できないからです。

しかし、この問題を一部の指導者の資質や性格だけに帰結させてしまうと、本当の原因を見失います。

問題のある指導者を現場から外しても、同じような指導が別の場所で繰り返されるのであれば、そこには個人を超えた「構造」が存在しています。

結果を出した経験は、強い成功体験になる

体罰や暴言を伴う指導が残り続ける大きな理由の一つに、「過去の成功体験」があります。

・厳しく叱ったら、選手が動くようになった。
・強い言葉を使ったら、チームが引き締まった。
・限界まで追い込んだら、大会で勝つことができた。

このような経験を持つ指導者は、決して少なくありません。

人間の脳は、ある行動のあとに望ましい結果が得られると、その行動を「効果のある方法」として記憶します。心理学では、行動が結果によって強化される「強化学習」として説明できます。

「厳しく指導した」
  ↓
「選手が従った」
  ↓
「試合に勝った」
  ↓
「この指導は正しかった」

この結びつきができると、その方法を手放すことは簡単ではありません。

ただし、ここには重要な落とし穴があります。

選手が動いたことと、選手が育ったことは同じではありません。恐怖によって一時的に従ったことと、主体的に判断できるようになったことも違います。

さらに、勝利という結果だけを見ていると、その過程で選手が失ったものが見えにくくなります。

自信を失っていないか。
失敗を隠すようになっていないか。
指導者の顔色だけを見るようになっていないか。
競技を続ける意欲を失っていないか。
自分より弱い立場の人に、同じ関わりを再現していないか。

結果が出たという事実だけでは、その指導方法が適切だったことの証明にはなりません。

勝ったから正しかったのではなく、別の方法でも勝てた可能性があります。むしろ、選手の尊厳を守りながら、より大きな成長を引き出せた可能性もあるのです。

指導者自身も、過去の指導によってつくられている

もう一つ見逃せないのは、指導者自身が、かつて受けた指導の影響です。

「自分たちの時代は、これくらい当たり前だった」
「私も叩かれて強くなった」
「厳しくされて、初めて本気になれた」

こうした言葉の背景には、自分の経験を基準に現在を判断する、人間の自然な認知の働きがあります。

人は、自分が苦しみながら乗り越えてきた経験を、無意味だったとは考えたくありません。そのため、過去の苦しさに「自分を成長させてくれた」という意味を与えようとします。

これは、自分の人生を肯定するための心理的な働きでもあります。

しかし、

「私は耐えることができた」

「次の世代にも同じ経験が必要である」

は、別の話です。

過去の自分を否定する必要はありません。必要なのは、過去の経験を尊重しながら、現在の知識によって指導方法を更新することです。

感情的な指導の正体は、指導者の自己防衛でもある

試合中、選手が同じミスを繰り返す。
指示どおりに動かない。
練習でできていたことが本番でできない。

その瞬間、指導者の脳では、「このままでは負ける」「自分の指導力が疑われる」「これまでの努力が無駄になる」といった危機反応が起こります。

脅威を感じると、扁桃体を中心とした情動反応が強まり、冷静な判断や衝動の抑制に関わる前頭前野の働きが相対的に低下しやすくなります。

その結果、本来の目的である「選手を成長させること」よりも、

「今すぐ従わせたい」
「この状況を止めたい」
「自分の立場を守りたい」

という衝動が前に出ます。

そこで発せられる暴言や威圧的な態度は、選手のための指導に見えて、実際には指導者自身の不安や焦りを処理する行動になっている場合があります。

ただし、脳の仕組みは行為を正当化する理由ではありません。自分の情動反応を理解し、適切に調整することも、指導者に求められる専門性の一つです。

権力差が「間違い」を見えにくくする

スポーツ現場には、指導者と選手の間に大きな権力差があります。

指導者は、選手の起用、出場時間、評価、進路、推薦などに影響を持つことがあります。そのため、選手が「おかしい」と感じても、声を上げることは容易ではありません。

「言ったら試合に出られないかもしれない」
「自分が弱いだけだと思われる」
「チームに迷惑をかける」
「保護者や仲間に失望される」

こうした不安によって沈黙が生まれます。

周囲の大人も、「勝つためには仕方がない」「あの先生は結果を出している」「本人のために厳しくしている」と解釈すると、問題を問題として認識しにくくなります。

そして、誰も止めない状況が続くと、行為そのものがチームの「当たり前」になっていきます。

体罰・暴言がなくならないのは、行う人がいるからだけではありません。それを言い出せない人、止められない人、見ても判断できない人が生まれる構造が残っているからでもあります。

対策は存在しても、現場を支える仕組みは発展の途中にある

現在、多くの競技団体や教育機関では、相談窓口の設置、指導者研修、ガイドラインの整備などが進められています。これは大切な前進です。

一方で、制度があることと、安心して利用できることは同じではありません。

・相談した選手や保護者が守られるのか。
・相談後に不利益を受けないか。
・誰が事実を確認するのか。
・指導者に改善の機会や支援があるのか。
・チーム全体の文化まで見直されるのか。

こうした一連の仕組みは、まだ発展させていく余地があります。

問題が起きてから処分するだけでは、十分な対策とはいえません。必要なのは、問題を早期に発見し、相談者を守り、事実を公正に確認し、指導者の行動変容と現場の文化改善まで支える仕組みです。

言い換えれば、「違反者を見つける機関」だけではなく、「よりよい指導者を育てる仕組み・機関」が求められているのです。

体罰・暴言をなくすことは、指導を弱くすることではない

体罰や暴言を否定すると、「厳しい指導ができなくなる」「選手に何も言えなくなる」と心配する指導者もいます。

しかし、体罰・暴言と厳しい指導は同じではありません。

厳しい指導とは、高い基準を示し、事実を曖昧にせず、選手に責任ある行動を求めることです。一方、体罰や暴言は、恐怖や屈辱によって相手を動かそうとする行為です。

選手の人格を否定する必要はありません。

「お前はダメだ」ではなく、
「今の行動は、目標にふさわしくない」

「やる気がないなら辞めろ」ではなく、
「いま何が行動を止めているのか、一緒に確認しよう」

と伝えることができます。

求める水準を下げるのではなく、伝え方と育て方の質を高める。それが、これからの厳しさです。

fine理論から考える、本質的な解決

fine理論の視点では、体罰・暴言の問題は、単なる言葉遣いや指導技術の問題ではありません。

指導者の思考、情動、意思決定、行動がどのようにつながっているかという「人間の構造」の問題です。

したがって、必要なのは「怒ってはいけない」と教えるだけの研修ではありません。

指導者が、

  • 自分は何に反応しやすいのか
  • どのような場面で情動が乱れるのか
  • 過去の成功体験にとらわれていないか
  • 勝利と育成を混同していないか
  • 選手のためではなく、自分を守るために怒っていないか
  • 恐怖以外の方法で、選手を動機づけられるか

を継続的に振り返る必要があります。

そのうえで、指導者個人の努力だけに任せず、チームや組織が指導を客観的に点検する仕組みを持つことが重要です。

問題は「人」だけではなく、「更新されない構造」にある

体罰・暴言を行う指導者の責任は、明確にしなければなりません。

しかし、その人を処分して終われば、現場には同じ問題を生み出す土壌が残ります。

・過去の成功体験。
・勝利を最優先する評価。
・指導者への権力集中。
・選手が声を上げにくい関係。
・周囲の沈黙。
・相談後まで支える仕組みの不足。
・指導者自身が学び直す機会の少なさ。

これらが重なったとき、体罰や暴言は「個人の問題」として現れます。

だからこそ、これから問われるのは、

「誰が悪いのか」

だけではありません。

「なぜ、その行動が起きたのか」
「なぜ、周囲は止められなかったのか」
「同じことを繰り返さないために、何を変えるのか」

まで考える必要があります。

体罰・暴言をなくすとは、指導者を萎縮させることではありません。

・指導者の経験を、現代の知識によって更新すること。
・選手が安心して挑戦し、失敗から学べる環境をつくること。
・そして、勝利と人間的成長を両立できる指導文化を育てること。

スポーツの未来を変えるために必要なのは、過去の指導者を一方的に否定することではなく、過去の経験に敬意を払いながらも、それを絶対的な正解にしない姿勢なのだと思います。

 

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