第2回「正しいことをしたければ、偉くなれ。」
2026/09/16
<シリーズ>
『踊る大捜査線』のセリフから読み解く「人と組織」
―fine理論で考える、信念・責任・自走する力―
第2回「正しいことをしたければ、偉くなれ。」
「正しいことをしたければ、偉くなれ。」
この言葉は、少し乱暴に聞こえるかもしれません。
正しいことは、立場に関係なく行うべきではないか。
偉くならなければ正しいことができない組織こそ、間違っているのではないか。
そう感じる人もいるでしょう。
しかし、このセリフが突きつけているのは、単なる出世のすすめではありません。
そこには、「正しい考えを持っているだけでは、組織は変わらない」という厳しい現実が込められています。
正しいことを言っているのに、なぜ組織は動かないのか
組織の中では、多くの人が問題に気づいています。
「このやり方では、現場が疲弊する」
「もっと顧客の声を聞くべきだ」
「このルールは、今の状況に合っていない」
「若手が意見を言える環境をつくった方がいい」
しかし、問題に気づき、正しい意見を伝えたからといって、組織がすぐに変わるわけではありません。
なぜなら、組織を変えるためには、考えだけでなく、
- 意思決定する権限
- 人や予算を動かす力
- 関係者を納得させる力
- 実行を継続させる仕組み
- 結果を引き受ける責任
が必要になるからです。
正しい意見は、変革の出発点にはなります。
しかし、正しさだけでは、変革を完了させることはできません。
「偉くなる」とは、何を意味するのか
一般的に「偉くなる」と聞くと、出世する、役職に就く、権力を持つといった姿を想像します。
しかし、このセリフを組織論として捉えるなら、「偉くなる」とは、単に肩書きを手に入れることではありません。
それは、「自分の信念を実現できるだけの影響力と、その結果を引き受ける責任を持つこと」だと考えられます。
立場が上がれば、決められることが増えます。
その一方で、自分の判断が多くの人に影響を与えるようになります。
つまり、権限が大きくなるということは、自由になることではありません。
引き受ける責任が大きくなるということです。
fine理論で考える「組織を変える四つの力」
fine理論の視点から組織変革を考えると、次の四つが重要になります。
1.信念
信念とは、自分が何を大切にし、何のために行動するのかという内的な判断基準です。
組織の中では、上司の指示、周囲の評価、過去から続く慣習など、さまざまな外的基準が働きます。
その中で自分を見失わないためには、「自分は何を守り、何を実現したいのか」という軸が必要です。
ただし、信念と固定観念は違います。
信念は、目的に向かって自分を動かす軸です。
固定観念は、過去の経験や思い込みによって、見方や行動を縛るものです。
「自分は正しい」という考えに固執し、他者の意見を受け入れられなくなったとき、信念は固定観念へ近づいていきます。
だからこそ、本当に信念を持つ人には、自分の正しさを問い直すメタ思考が必要です。
2.立場
立場とは、組織の中で与えられた役割と権限です。
組織では、誰もが同じ範囲の意思決定をできるわけではありません。
現場の担当者には現場で判断できる範囲があり、課長、部長、経営者には、それぞれ異なる判断領域があります。
問題は、立場に上下があることそのものではありません。
その立場が、「何を決めるためのものなのか」「誰を支えるためのものなのか」が曖昧になることです。
立場は、人を支配するためにあるのではありません。
その役割に必要な判断を行い、組織の目的を実現するためにあります。
3.影響力
権限があれば、人を一時的に動かすことはできます。
しかし、命令だけでは、人の心まで動かすことはできません。
組織を本当に変えるためには、周囲が、
「この人の考えなら信じられる」
「この人と一緒に取り組みたい」
「自分も変化に参加したい」
と思えることが必要です。
影響力は、肩書きだけから生まれるものではありません。
日頃の言動、誠実さ、対話、実績、他者への配慮、そして言葉と行動の一貫性から生まれます。
役職は会社から与えられますが、影響力は周囲から認められるものです。
4.責任
何かを変えれば、必ず結果が生まれます。
期待した成果が出ることもあれば、うまくいかないこともあります。誰かに負担をかけたり、予想していなかった問題が起きたりすることもあります。
そのときに、
「私は提案しただけです」
「現場の実行方法が悪かった」
「部下が期待どおりに動かなかった」
と責任を手放すのであれば、それは本当のリーダーシップとはいえません。
責任とは、失敗の罰を受けることだけではありません。
自分の意思決定によって生まれた結果を受け止め、必要な修正を続けることです。
これは、fine lab.が考える「自走」の重要な要素でもあります。
自分で選択し、行動し、結果を受け止め、修正する。
その循環を止めない人が、自走できる人です。
信念だけでも、立場だけでも組織は変わらない
信念があっても、影響力がなければ、独りよがりになることがあります。
立場があっても、信念がなければ、前例や上層部の意向に従うだけになります。
影響力があっても、責任を引き受けなければ、周囲を巻き込んだまま逃げることになります。
責任感があっても、立場や権限がなければ、すべてを自分一人で抱え込み、疲弊してしまうことがあります。
組織を変える力は、次のように整理できます。
信念 × 立場 × 影響力 × 責任 = 組織を動かす力
どれか一つだけでは、持続的な変化にはつながりません。
自分の信念を持ち、その信念を他者に伝え、必要な立場と影響力を獲得し、結果に責任を持つ。
そこまで引き受けて、初めて「正しいと思うこと」を組織の現実へ変えることができます。
「偉くなること」が目的になった瞬間
ここで注意しなければならないことがあります。
それは、「正しいことをするために偉くなる」という目的が、いつの間にか「偉くなること」そのものへ置き換わってしまうことです。
人は立場を得ると、その立場を失いたくないという自己防衛が働きます。
以前は組織の矛盾を指摘していた人が、管理職になった途端に、
「組織だから仕方がない」
「今までこの方法でやってきた」
「余計な問題を起こさない方がいい」
と言い始めることがあります。
これは、信念がなくなったというよりも、自分の立場を守ることが優先されるようになった状態です。
本来、正しいことを実現するために得た立場が、いつの間にか守るべき目的へ変わってしまう。
ここに、組織が変わらない大きな理由があります。
だからこそ、立場が上がるほど、
「私は、何のためにこの役割を担っているのか」
「誰のために、この権限を使うのか」
「今の判断は、目的に沿っているのか」
「自分の立場を守ることが優先されていないか」
と、自分を俯瞰する必要があります。
役職がなくても、影響力は育てられる
では、偉くならなければ、何もできないのでしょうか。
決してそうではありません。
役職がなくても、
- 目の前の仕事に誠実に向き合う
- 事実に基づいて意見を伝える
- 周囲との信頼関係を築く
- 小さな改善を積み重ねる
- 困っている人を支える
- 結果を受け止めて修正する
ことはできます。
立場による権限がなくても、行動を通して影響力を育てることはできます。
むしろ、役職を得る前から信頼と影響力を築いてきた人だからこそ、立場を得たときに、その権限を正しく使えるのではないでしょうか。
「偉くなったから人がついてくる」のではありません。
人から信頼される行動を積み重ねてきた人が立場を得たとき、組織を動かす本当の力が生まれるのです。
正しさには、覚悟が必要である
「正しいことをしたければ、偉くなれ。」
この言葉が教えているのは、出世することの大切さではありません。
正しいと思うことを現実にしたいのであれば、意見を言うだけで終わってはいけないということです。
・人を動かす。
・仕組みを変える。
・反対意見と向き合う。
・結果を受け入れる。
・失敗すれば修正する。
そこまで背負う覚悟があるのか。
このセリフは、私たちにそう問いかけています。
本当の意味で「偉くなる」とは、人より上に立つことではありません。
より多くの人と組織の未来に、責任を持てる人になることではないでしょうか。
正しさを語る人から、正しさを実現できる人へ。
その間をつなぐものが、信念・立場・影響力、そして責任なのです。
今回のfineポイント
信念は行動の軸、立場は決定の範囲、影響力は人を動かす力、責任は結果を受け止めて修正する力である。
組織を変えるには、正しさを主張するだけでなく、その正しさを実現する責任まで引き受ける必要がある。
次回予告
「偉くならなくたって正しいことは出来る。」
立場がなければ、本当に組織や社会を変えられないのでしょうか。
第3回は、「正しいことをしたければ、偉くなれ」と対になるこの言葉から、肩書きに頼らない主体性、日常の選択、そして一人ひとりが持つ影響力についてfine理論から考えます。
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