第1回「事件は会議室で起きてるんじゃない。現場で起きてるんだ!」
2026/09/11
<シリーズ>
『踊る大捜査線』のセリフから読み解く「人と組織」
― fine理論で考える、信念・責任・自走する力 ―
第1回「事件は会議室で起きてるんじゃない。現場で起きてるんだ!」
― fine理論で考える「事実」と「組織の意思決定」―
「事件は会議室で起きてるんじゃない。現場で起きてるんだ!」
『踊る大捜査線』を象徴する、青島俊作の有名なセリフです。
ドラマや映画を見たことがない人でも、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
この言葉が長く人々の記憶に残っているのは、警察組織だけではなく、多くの会社、学校、スポーツチーム、行政組織などに共通する問題を、一言で表現しているからです。
それは、
意思決定をする人と、実際に問題が起きている場所との間に、距離が生まれている
という問題です。
会議室に届くのは「事実」なのか
現場で何かが起きると、その情報は報告書やデータ、メール、会議などを通じて上層部へ伝えられます。
しかし、現場で起きたことが、そのまま会議室に届くとは限りません。
情報が伝わる過程で、
- 誰かの見方
- 過去の経験
- 組織内の立場
- 上司への配慮
- 責任を避けたい気持ち
- 自分を守ろうとする心理
などが入り込みます。
現場で起きた一つの事実に、複数の解釈が重なっていくのです。
その結果、会議室に届く頃には、「現場で起きた事実」ではなく、「組織にとって都合よく整理された情報」に変わっていることがあります。
会議に参加している人たちは、その情報を事実だと思って話し合います。しかし、議論の出発点そのものが現場の実態とずれていれば、どれほど優秀な人が集まり、真剣に話し合っても、適切な答えにはたどり着けません。
fine理論が重視する「事実と解釈」
fine理論では、人間は事実そのものに反応しているのではなく、自分がその事実をどのように捉え、解釈したかによって感情・思考・意思決定・行動を生み出すと考えます。
たとえば、現場から「予定より作業が遅れている」という報告があったとします。
事実は、
作業が当初の予定より遅れている
ということです。
しかし、そこに解釈が加わると、
「担当者の能力が低い」
「現場の意識が足りない」
「また同じ部署が問題を起こした」
「管理者が適切に指導していない」
といった見方へ変わっていきます。
ところが、実際には、
- 当初の計画に無理があった
- 必要な情報が共有されていなかった
- 他部署の承認に時間がかかっていた
- 途中で顧客の要望が変更された
- 担当者に業務が集中していた
という構造的な原因があるかもしれません。
「誰が悪いのか」という解釈から始めると、人を責める方向へ進みます。
一方、「実際に何が起きているのか」という事実から始めると、仕組みを修正する方向へ進むことができます。
ここに、組織の成長を左右する大きな分岐点があります。
なぜ、会議室は現場から離れてしまうのか
会議室にいる人が、現場を軽視しているとは限りません。
むしろ、組織をよくしたい、問題を早く解決したい、正しい判断をしたいと思っている人も多いでしょう。
それでも現場とのズレが生まれるのは、人間と組織に次のような習性があるからです。
1.複雑な現実を単純化する
現場では、複数の問題が同時に起きています。しかし、限られた時間で説明するために、複雑な出来事は短い言葉や数字に置き換えられます。
分かりやすく整理することは必要です。ただし、整理する過程で大切な背景まで失われることがあります。
2.過去の経験で「今」を見る
人間は、目の前の出来事を過去の知識や経験と照らし合わせて理解します。
以前にも似た問題があったから、今回も同じ原因だろうと判断してしまうのです。
しかし、似ていることと、同じであることは違います。
3.自分や組織を守ろうとする
問題が起きると、人間の脳は無意識に自分を守ろうとします。
そのため、不都合な情報を小さく扱ったり、責任の所在を別の人や部署に求めたりすることがあります。
これは、単にその人の性格が悪いからではありません。人間に備わった自己防衛の働きが、組織の中で表れているのです。
「現場が正しく、会議室が間違っている」のか
このセリフを表面的に捉えると、
現場は正しく、会議室は間違っている
という対立構造に見えるかもしれません。
しかし、fine理論的に考えるなら、それだけでは十分ではありません。
現場にいる人も、すべての事実を客観的に見ているわけではないからです。
現場には現場の感情、思い込み、利害関係があります。自分が直接経験したことだからこそ、視野が狭くなる場合もあります。
反対に、会議室だからこそ、複数の現場を比較し、組織全体を俯瞰して判断できることもあります。
必要なのは、現場と会議室のどちらが正しいかを争うことではありません。
現場の具体的な事実と、組織全体を捉える視点をつなぐこと
が重要なのです。
組織に起きる「三つの距離」
現場と意思決定者の間には、主に三つの距離が生まれます。
①事実の距離
情報が要約・編集され、実際に起きたことが見えにくくなる距離です。
②感情の距離
現場で働く人の不安、葛藤、悔しさ、使命感などが、数字や報告書から抜け落ちてしまう距離です。
③責任の距離
判断する人と、その判断による影響を直接受ける人が異なることで生まれる距離です。
この三つの距離が大きくなるほど、組織の意思決定は現場の実態から離れていきます。
自走する組織は、現場と会議室をつなぐ
fine理論が目指す「自走する組織」とは、現場が勝手に動く組織ではありません。
また、上層部がすべてを決め、現場がその指示に従うだけの組織でもありません。
自走する組織では、現場の人が事実を捉え、自分で考え、必要な意見を伝えます。そして、リーダーは現場から届けられた情報を受け止め、組織全体の視点から判断し、その判断に責任を持ちます。
つまり、
現場には「事実を伝える力」が必要であり、
リーダーには「事実を受け止める力」が必要なのです。
現場が上司の顔色を見て事実を隠せば、正しい判断はできません。
上司が自分に都合の悪い報告を拒絶すれば、やがて誰も本当のことを言わなくなります。
心理的安全性とは、単に優しく話せる雰囲気ではありません。
組織にとって不都合な事実であっても、必要な情報として率直に伝えられ、それを改善に生かせる状態です。
リーダーが会議室で持つべき五つの問い
現場から報告を受けたとき、リーダーはすぐに結論を出すのではなく、次のように問い直す必要があります。
- 実際に起きた「事実」は何か
- そこに、誰の「解釈」が加わっているか
- 現場の当事者は、何を見て何を感じているか
- 個人ではなく、仕組みや関係性に原因はないか
- この判断によって、現場にどのような影響が生まれるか
この問いを持つだけでも、会議の質は大きく変わります。
会議室で考え、現場で確かめる
会議室は必要です。
現場だけでは見えない組織全体の課題を整理し、進む方向を決める場所だからです。
しかし、会議室で出された結論は、あくまでも一つの仮説です。その判断が本当に適切だったかどうかは、現場で確かめなければなりません。
・考える。
・決める。
・実践する。
・結果を受け止める。
・そして修正する。
この循環が、自走する人と組織を育てます。
「事件は会議室で起きてるんじゃない。現場で起きてるんだ!」
この言葉は、会議を否定しているのではありません。
会議室にいる人に向かって、
あなたが見ている情報だけを、現実のすべてだと思ってはいけない
と問いかけているのではないでしょうか。
現場なき会議は、机上の空論になります。
会議なき現場は、目の前の対応に追われ続けます。
人と組織が自走するために必要なのは、どちらか一方を正しいとすることではありません。
現場で事実を捉え、会議室で構造を考え、もう一度現場で確かめる。
その往復の中にこそ、組織を動かす本当の意思決定が生まれるのです。
今回のfineポイント
人は、事実そのものではなく、その事実に加えた解釈によって意思決定する。
だからこそ、組織は結論を急ぐ前に、「現場で実際に何が起きているのか」を確かめる必要がある。
次回予告
「正しいことをしたければ、偉くなれ。」
正しい考えを持っているだけでは、なぜ組織を変えられないのか。
第2回は、信念・立場・影響力・責任の関係をfine理論から考えます。
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