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なぜ、想像力が働かなくなるのか?

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なぜ、想像力が働かなくなるのか?

なぜ、想像力が働かなくなるのか?

2026/09/26

なぜ、想像力が働かなくなるのか?

― 相手を思う「余白」を奪うもの ―

前回、「思いやりは気づきから始まる」と書きました。

そして、その「気づき」を生み出す一つの重要な力が、想像力ではないかと考えました。

では、次の疑問が生まれます。

なぜ、人は相手のことを想像できなくなるのでしょうか。

「どうして、この人は周りのことを考えられないのだろう」

「なぜ、相手の気持ちがわからないのだろう」

そんな場面に出会うと、私たちはつい、

「思いやりがない」

「自分勝手だ」

「気が利かない」

と、その人の性格の問題として捉えたくなります。

しかし、人間の認知機能から考えると、それほど単純ではありません。

普段は思いやりのある人でも、

忙しいとき。

強いストレスを抱えているとき。

自分を守ろうとしているとき。

「この人はこういう人だ」と決めつけているとき。

相手を想像する力は弱くなることがあります。

つまり、想像力は、その人に「ある・ない」という能力だけではなく、置かれている状態によって「働く・働かない」が変わる力でもある、ということです。

 

1.忙しすぎると、人は「自分のことで精いっぱい」になる

想像力を働かせるためには、ある程度の認知的な余裕が必要です。

・相手の表情を見る。

・いつもとの違いを感じる。

・「何かあったのかな」と考える。

・自分とは違う立場から物事を見る。

こうしたことには、注意やワーキングメモリなどの認知資源が使われます。

ところが、

・仕事が山積みになっている。

・時間に追われている。

・次から次へと判断を求められる。

・複数のことを同時に考えなければならない。

このような状況になると、自分自身の目の前の課題を処理することで、脳の容量が使われてしまいます。

実際、認知負荷が高い状態では、相手の知識や立場に合わせて考える「視点取得」が難しくなることが示されています。

つまり、「忙しい人ほど冷たい」という話ではありません。

むしろ、「忙しすぎることで、相手を考えるための「認知の余白」がなくなる」可能性があるのです。

職場では特に重要な視点です。

「あの上司は部下を見てくれない」という問題の背景に、

本人の人格だけでなく、「見る余裕がない働き方」が存在しているかもしれません。

 

2.強いストレスは「広く見る力」を狭める

人はストレスを感じると、まず自分を守ろうとします。

これはごく自然な反応です。

危険があるときに、「相手はどう感じているのだろう」とゆっくり考えていたのでは、生存には不利だったからです。

強いストレス下では、注意は重要な刺激へ集中しやすくなり、柔軟に考えたり、複数の可能性を比較したりする能力が低下することがあります。

急性ストレスについてのメタ分析でも、ワーキングメモリや認知的柔軟性などの実行機能が低下しやすいことが報告されています。

また、前頭前野は高次の判断や認知調整に関係しますが、ストレスの影響を受けやすい脳領域として知られています。

簡単に言えば、「余裕のあるときの脳と、追い込まれているときの脳では、物の見え方が違う」ということです。

だから、「どうしてそんなことにも気づかないの?」と責める前に、

「今、この人には周囲を見る余裕があるだろうか」という視点も必要なのだと思います。

 

3.人間は最初に「自分の視点」から世界を見る

もう一つ重要なことがあります。

私たちは最初から客観的に相手を見ているわけではありません。

研究では、大人であってもまず自分自身の視点を基準に判断し、その後で相手の立場へ修正している可能性が示されています。(サイエンスダイレクト)

つまり、

最初に浮かぶのは、

「私はこう思う」

「私ならこうする」

「私は平気だ」

なのです。

そこから、「でも、この人は違うかもしれない」と修正する。

この修正こそが、想像力です。

ところが、疲れていたり、忙しかったり、感情が大きく動いていたりすると、

この「でも、相手は違うかもしれない」という修正が起こりにくくなります。

すると、

「私は大丈夫だから、あなたも大丈夫」

「私はできたのだから、あなたもできる」

「私は気にならないから、気にする方がおかしい」

となってしまう。

これは、「自分の尺度を、相手の尺度だと思い込んでいる状態」とも言えます。

 

4.「この人はこういう人だ」という思い込み

私たちは過去の経験を使って、現在を見ています。

これは人間にとって必要な機能です。

毎回すべてを一から判断していたのでは、生活できません。

しかし、この便利な仕組みには弱点もあります。

一度、

「あの人は仕事が遅い」

「あの人はやる気がない」

「あの人は怒りっぽい」

「あの人は何を言っても変わらない」

と認識すると、その後の行動まで、その枠組みを通して見るようになる可能性があります。

近年の感情知覚や社会的知覚研究でも、私たちが目の前の情報だけで他者を認識しているのではなく、過去の知識や期待といったトップダウン情報が知覚そのものに影響することが示されています。(Nature)

つまり、「人間は「見てから判断する」だけではなく、「こうだろうと思いながら見る」ことがある」のです。

ここに固定観念の怖さがあります。

想像力とは、本来、「ほかの可能性もあるかもしれない」と考える力です。

しかし、思い込みが強くなると、その可能性そのものを考えなくなります。

 

5.感情が強く動くと、「事実」より「自分の解釈」が大きくなる

fine理論では、「事実」と「解釈」を分けることを大切にしています。

たとえば、事実は、「部下から返事がなかった」です。

しかし、腹を立てていると、

「無視された」

「馬鹿にされた」

「反抗している」

と、一つの解釈が急速に強くなることがあります。

このとき、

「聞こえなかったのかもしれない」

「別のことに集中していたのかもしれない」

「何か悩んでいたのかもしれない」

という別の可能性を想像しにくくなります。

つまり、「情動が大きくなるほど、世界が狭く見えることがある」のです。

「自分がどう感じたか」が前面に出て、「相手には何が起きていたのか」が後ろに下がってしまう。

だからこそ、想像力を働かせるためには、相手を見る前に、「自分自身の状態に気づくこと」が重要になります。

 

6.立場が上がると、相手の視点を取らなくなることもある

これは組織を考えるうえで興味深い研究です。

Galinskyらは、権力感が高まった人ほど、自分の視点を基準にしやすく、他者の視点や感情を読み取る傾向が低下する可能性を複数の実験で示しました。(Sage Journals)

もちろん、「上司になると思いやりがなくなる」という意味ではありません。

重要なのは、立場が上がるほど、

・周囲が自分に合わせてくれる。

・情報が自分のもとへ集まる。

・自分の判断で物事が動く。

その結果、「意識的に相手の視点を取りにいかなければ、自分の見方が標準になりやすい」

ということです。

これは企業だけではありません。

教師と生徒。

指導者と選手。

親と子ども。

経験者と初心者。

「わかっている側」と「わからない側」。

あらゆる関係で起こり得ます。

だから立場が上になるほど、「なぜ、わからないの?」

ではなく、「この人には、どう見えているのだろう」という問いが必要になります。

 

7.疲れていると、「思いやり」そのものが弱くなることもある

人を理解することは、意外とエネルギーを使います。

いつも誰かの相談に乗る。

人の感情を受け止める。

人間関係を調整する。

トラブルに対応する。

こうしたことが長期間続けば、心身は疲弊します。

医療従事者を対象にした研究では、バーンアウトと共感性の間に負の関連を報告する研究が多いことが、システマティックレビューでも示されています。ただし因果関係については慎重に考える必要があります。(PubMed Central (PMC))

つまり、思いやり深い人であっても、疲れ切れば相手を見る余裕を失うことがあります。

これも、「性格が変わった」というより、「人を想像する力を支える資源が減っている」

と考えた方がよい場合があります。

 

「想像力がない人」ではなく、「想像力が働きにくい状態」

ここまで考えると、見方が少し変わります。

想像力が働かなくなる背景には、

・忙しさ

・認知的な負荷

・ストレス

・強い情動

・過去の経験や固定観念

・自分の尺度

・立場や権限

・疲労やバーンアウト

などがあります。

これらに共通するものがあります。

それは、「余白」がなくなることです。

相手を想像するためには、ほんの少し立ち止まる必要があります。

「自分はこう思う」

その直後に、「でも、この人は違うかもしれない」と考える。

このわずかな余白です。

 

想像力とは、「考える余白」なのかもしれない

私は、今回このテーマを考えながら、

想像力とは単なる能力ではなく、「まだわからない」としておける力ではないかと思います。

「あの人はこうだ」と答えを急がない。

「何か理由があるかもしれない」と考える。

「自分には見えていないものがある」と認める。

そして、

「どうしたの?」

「何かあった?」

「私はこう見えたけれど、実際はどう?」

と尋ねる。

想像力とは、相手の心を勝手に読み切る力ではありません。

むしろ、

わからないからこそ、考える。
わからないからこそ、尋ねる。

そのための力です。

 

想像力を取り戻すための「5つの問い」

日常の中で、少し立ち止まり、次の問いを持ってみることができます。

① 今、起きている「事実」は何か。

② 私は、その事実をどう解釈しているか。

③ その解釈以外の可能性はないか。

④ 相手から見ると、この状況はどう見えるだろうか。

⑤ わからない部分を、本人に確かめられないだろうか。

この5つを考えるだけでも、

「自分の世界」から、「相手も存在する世界」へ視点を広げることができます。

 

思いやりを育てるなら、「余白」を育てる

「もっと思いやりを持ちなさい」

と教えるだけでは、思いやりは育ちにくいと思います。

それよりも、すぐに決めつけない。一つの解釈に固執しない。

相手の立場から見る。わからないことを尋ねる。

自分自身が感情的になっていないか確認する。

そうした考える余白を育てることが重要なのではないでしょうか。

前回、

見る → 想像する → 気づく → 理解する → 思いやる → 行動する

という流れを示しました。

今回、そこにもう一つ加えたいと思います。

立ち止まる

↓

見る

↓

想像する

↓

気づく

↓

理解しようとする

↓

思いやる

↓

行動する

想像力が働かなくなるのは、必ずしもその人に「思いやりがない」からではありません。

・忙しすぎるのかもしれない。

・感情が大きく動いているのかもしれない。

・自分を守ることで精いっぱいなのかもしれない。

・過去の経験にとらわれているのかもしれない。

だからこそ、人を責める前に、

「なぜ、この人はいま想像できなくなっているのだろう」と考えてみる。

実は、その問いそのものが、すでに「思いやり」なのかもしれません。

 


参考にした主な研究

Epley, N., Morewedge, C. K., & Keysar, B. (2004). Perspective taking in children and adults: Equivalent egocentrism but differential correction. Journal of Experimental Social Psychology. (サイエンスダイレクト)

Roßnagel, C. (2000). Cognitive load and perspective-taking: Applying the automatic-controlled distinction to verbal communication. European Journal of Social Psychology. (Wiley Online Library)

Shields, G. S., Sazma, M. A., & Yonelinas, A. P. (2016). The Effects of Acute Stress on Core Executive Functions: A Meta-Analysis and Comparison with Cortisol. Neuroscience & Biobehavioral Reviews. (PubMed Central (PMC))

Galinsky, A. D., Magee, J. C., Inesi, M. E., & Gruenfeld, D. H. (2006). Power and Perspectives Not Taken. Psychological Science. (Sage Journals)

Mohanty, A., Freeman, J., & Jin, J. (2025). Top-down influences on the perception of emotional stimuli. Nature Reviews Psychology. (Nature)

今回の記事で特に大切にしたのは、「想像力の欠如」を人間性の問題にしないことです。
「想像力がない」のではなく、想像するための余白が失われていることがある。この整理にすると、企業・教育・スポーツ・家庭のどこにも展開できる内容になります。

 

 

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